前回の最後に、こう書きました。
Mmm, c’est très bon !(んー、とてもおいしい!)。この言葉を、私がいちばん言いたい相手がいます。
今日は少し寄り道をして、お菓子の話をさせてください。
数えてみたら、フランス菓子を作りはじめて20年以上になっていました。20年弱のつもりでいたので、自分でも驚きました。
今日載せる写真は、どれも10年以上前のもの。いちばん気合が入っていたころに作ったお菓子たちです。
そして最後に、choucreme という名前の由来も書きます。
いちばん気合が入っていた1年半
お菓子作りにいちばん打ち込んでいたのは、オンラインのお菓子教室でレッスンを受けていた1年半でした。
オンラインなので、自分の都合のいい時間にできる。 そして、動画を何回でも見直せる。 これが、私にはとても合っていました。
課題のために、1週間同じものを作り続けました
教室では、課題のお菓子を作って、写真で提出することになっていました。
私の場合、提出する1枚のために、1週間ほど毎日、同じものを繰り返し作っていました。(ここは人によると思います)
大変でした。でも、繰り返すたびに少しずつ形がそろい、色がきれいになり、完成度が上がっていく。 それが分かるのが、なにより楽しかったのです。
同じレシピなのに、仕上がりの表情が違う
もうひとつ楽しかったのが、同じクラスの人の写真を見られることでした。
そして、見ていていちばん不思議だったのが、これです。
同じ動画を見て、同じレシピで作っているのに、仕上がりの表情が一人ひとり違うのです。
クリームの絞り方の角度。焼き色の濃さ。粉砂糖のふり方。どれも間違いではありません。でも、明らかに違う。
なぜなのでしょう。手の大きさでしょうか。オーブンの癖でしょうか。それとも、その人が「きれい」と思う形が、少しずつ違うからでしょうか。
いまでも答えは分かりません。でも、そのことに気づいてから、お菓子作りがますます楽しくなりました。
レシピのとおりに作れば同じものができると思っていたのに、そうではなかった。同じ手順をなぞっても、その人らしさが出てしまう。
いま思えば、フランス語の発音も同じかもしれません。同じ音声を聞いてまねても、出てくる声は一人ひとり違うのでしょうから。
※ この記事の写真のうち、レッスンの課題だったものが5つあります。シュークリーム、サントノーレ、ミルフィーユ、ピティヴィエ、モンブランです。あとは、有名なパティシエのレシピ本を見ながら作ったものです。
すべては、シンプルなシュークリームから
私がいちばん好きなお菓子は、これです。

カスタードクリームの上に、シャンティクリーム(泡立てた生クリーム)を絞っただけの、シンプルなシュークリーム。凝った飾りも、仕掛けもありません。
派手なケーキをたくさん作ってきましたが、いちばん好きなのは、いまもこれです。
そこから、濃厚なほうへ広がっていきました
同じシューの生地とクリームが、姿を変えていきます。
エクレア ― 細長いシューに、コーヒーやキャラメルのクリームを詰めて

パリ・ブレスト ― 輪の形のシューに、プラリネ(ナッツ)の濃厚なクリームを

サントノーレ ― 土台の上にシューを並べ、真ん中にクリームを絞って。これはチョコレートで仕上げたものです

シンプルなシュークリームから始まって、だんだん濃厚なほうへ。好みが広がっていくのが、自分でも面白いところでした。
チョコレートも、モンブランも、マカロンも
シュー菓子だけではありません。
チョコレートのケーキ

モンブラン

マカロン

どれも大好きです。結局、濃厚なクリームのお菓子に行きつくようです。
いちばん難しかった2つ
たくさん作った中で、とくに手こずったものが2つあります。どちらもレッスンの課題でした。 つまり、1週間くり返し作ったのに、それでも手こずったお菓子です。
サントノーレ

小さなシューを重ねて、上にキャラメルをのせたお菓子です。シューの中には、キャラメル風味のクレーム・シャンティが入っています。
難しかったのは、キャラメルの焦がし加減でした。
ほんの少しタイミングを外すだけで、色も表情も変わってしまう。 浅すぎれば色が出ず、焦がしすぎれば苦く黒くなる。ちょうどいい一瞬をつかまえるまで、何度も失敗しました。
サントノーレ―こちらは大きく作ったサントノーレです。

サントノーレという名前は、**パン屋さんとお菓子屋さんの守護聖人「聖オノレ」**から来ているそうです。
ひとつひとつのシューに飴をかけて、並べていきます。
そして飴がけと同じくらい難しかったのが、シブーストクリームを絞るところです。
シブーストは、カスタードクリームにメレンゲを合わせた、ふんわり軽いクリーム。これをサントノーレ口金という、先が斜めに切れた特別な口金で絞っていきます。
同じ太さで、同じ間隔で、途切れさせずに。手が止まればそこで形が崩れ、急げば太さが変わる。 一列絞るあいだじゅう、息を止めていた気がします。
ピティヴィエ

パイ生地でクリームを包んで焼く、フランスの伝統的なお菓子です。フランスのピティヴィエという町の名前がついています。
私にとって、いちばん難しかったのがこれでした。
上の渦巻き模様を、均一に入れるのが難しい。そして焼くと、側面の膨らみが均一にならない。 片方に偏ったり、潰れたり。
何度作っても、思いどおりにはなかなかいきませんでした。
ほかにも、こんなお菓子を
ミルフィーユ ― パイ生地とカスタードクリームを重ねたもの

オペラ ― コーヒーとチョコレートの層を重ねたケーキ

シャルロット ― 指の形のビスキュイで、まわりを囲んだケーキ

いちごのタルト

チョコレートとメレンゲのケーキ

実践編の表に、作ったお菓子が並んでいました
前々回の記事で、パティスリーで買い物をするための「実践編」を作ってもらった話を書きました。
その中に、「ショーケースでよく見るケーキの名前」という表がありました。
| フランス語 | 読み方 | どんなお菓子? |
|---|---|---|
| un éclair | アン エクレール | エクレア |
| un mille-feuille | アン ミルフイユ | ミルフィーユ |
| un Paris-Brest | アン パリ ブレスト | パリ・ブレスト |
| une religieuse | ュヌ ルリジューズ | シュークリームの2段重ね |
| un opéra | アン オペラ | オペラ |
見た瞬間、思いました。「これ、ぜんぶ作ったことがある」。
エクレアも、パリ・ブレストも、ミルフィーユも、オペラも。20年以上のあいだに、何度も作ってきたお菓子です。
でも——本場のものは、まだ一度も食べたことがありません。
形も、作り方も知っている。けれど、本当の味を知らない。だから、行きたいのです。
そして本場でいちばん食べてみたいのは、やっぱりシュー・ア・ラ・クレーム。あのいちばんシンプルなお菓子が、本場ではどんな味がするのか。それがどうしても知りたいのです。
ミルフィーユは「ミルフイユ」
ひとつ、フランス語を勉強していて驚いたことがあります。
日本語の「ミルフィーユ」は、フランス語では「ミルフイユ」と読むのです。
| つづり | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| mille-feuille | ミルフイユ | 千枚の葉 |
| mille filles | ミルフィーユ | 千人の娘 |
パイ生地が何層にも重なっている様子を、「千枚の葉」にたとえた名前なのだそうです。
ところが日本式に「フィーユ」と伸ばすと、「千人の娘」に聞こえてしまうと言われています。
20年以上「ミルフィーユ」と呼びながら作ってきたお菓子。本場のショーケースの前では、ちゃんと「ミルフイユ」と言いたい。 発音を練習する理由が、またひとつ増えました。
choucreme という名前の由来
さて、このブログのペンネーム、choucreme について。
もうお分かりかもしれません。いちばん好きな、あのシュークリームから取りました。
私はお菓子の中でもとくに、フランスの濃厚なカスタードクリームが大好きです。エクレアも、パリ・ブレストも、サントノーレも、たどっていけば同じところに行きつきます。
フランスでは「シュークリーム」は通じません
実は、日本語の「シュークリーム」は、フランスでは通じないそうです。
フランス語では chou à la crème(シュー・ア・ラ・クレーム)。chou はキャベツのこと。ころんと丸い形が、キャベツに似ているからだそうです。
そして、中に入っているカスタードクリームは crème pâtissière(クレーム・パティシエール)。直訳すると「お菓子職人のクリーム」です。
名前の中に、私の好きなものがつまっている。choucreme という名前を、あらためて気に入りました。
お菓子作りとフランス語は、同じ学び方でした
この記事を書きながら、ひとつ気づいたことがあります。
お菓子のレッスンと、いまのフランス語の勉強は、やり方がそっくりなのです。
| お菓子のレッスン | フランス語の50回コース |
|---|---|
| 自分の都合のいい時間にできる | 自分のペースで1回15分 |
| 動画を何回も見直せる | 音声を何回も聞き直せる |
| 同じものを1週間くり返し作る | 同じフレーズを5回ずつ声に出す |
| くり返すほど完成度が上がる | 復習の回で、忘れたものを拾い直す |
お菓子で身につけた「くり返して、少しずつ上手になる」というやり方。それを今、フランス語でもう一度やっているのでした。
サントノーレのキャラメルも、ピティヴィエの模様も、最初からうまくいったわけではありません。何度も失敗して、くり返して、ようやく形になった。
フランス語も、きっと同じです。 今日忘れても、また明日くり返せばいい。お菓子が教えてくれたことです。
いまは、簡単なお菓子を毎日
正直に書くと、最近は歳とともに、簡単なタルトやチーズケーキを作ることが多くなりました。写真のような手の込んだお菓子は、もうあまり作っていません。
でも、それを寂しいとは思っていません。
毎日、自然と身体が動いて作れる。 そのことに、いまは満足しています。
手順を、いちいち考えなくても手が覚えている。長い年月くり返してきたから、そうなれたのだと思います。
フランス語も、いつかそうなれたら。
考えなくても、自然と口が動く。ショーケースの前で、Bonjour ! と、お菓子の名前が、すっと出てくる。
そんな日を目指して、今日も15分、くり返しています。
まとめ|本当の味を知るために
今日お伝えしたかったことを、まとめます。
- 気がつけば、フランス菓子を20年以上作っていました
- いちばん打ち込んだのは、オンラインのお菓子教室の1年半。課題の写真1枚のために、1週間毎日同じものを作っていました
- いちばん好きなのは、いちばんシンプルなシュークリーム。そこからエクレア、パリ・ブレスト、サントノーレへと広がりました
- いちばん難しかったのはサントノーレとピティヴィエ。何度も失敗しました
- choucreme という名前は、その大好きなシュークリームから取りました
作り方は知っている。形も知っている。
でも、本場の味はまだ知らない。
それを確かめに行くことが、私がフランスへ行きたい、いちばん大きな理由です。
いつかパリのパティスリーで、シュー・ア・ラ・クレームをひとつ買って、ひとくち食べて。
「Mmm, c’est très bon !」
そう言える日まで、ゆっくり進んでいきます。
次回は、学習の記録に戻ります。第11回から STEP 2「自分のことを話す」。「Je suis japonaise.(私は日本人です)」から、自己紹介の練習が始まります。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
「私もこんなお菓子が食べてみたい」など思い浮かべていただけたらうれしいです。
À bientôt !(ア ビアント/またね)
